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東京高等裁判所 昭和34年(く)131号 決定 1960年2月03日

少年 S

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、(一)少年は所謂一人子で、孤独な反面、自己顕示性が強く、仲間の手前強がりを見せる傾向があり、これが少年期特有の反抗心理並びに英雄崇拝心理と相俟つて本件犯行を招致したものであり、環境の変化、調整によつて矯正改善の可能性が十分ある。(二)本件犯行は単純なスタンドプレイ的な点が窺われる。従来の仲間から関係を断ち、新しい環境で正しい指導をすれば、改善の見込は十分ある。少年を中等少年院に送致することは却つて前記傾向を助長するか、悪質な少年に影響されるか、又は劣等意識を抱かせるようになり、不適当と考えられる。(三)少年の保護者Kは盤景宗家○○流の家元であり、アメリカのロスアンジエルスにも出張所を有し、月収十万円の中流家庭であるが、少年は実は保護者の妹の子であり、少年の高校二年頃そのことを知り、大きなシヨツクを受け、その頃から不良化したようである。しかし、今回茨城農芸学院で附添人が面会した際、少年は保護者夫妻の愛情を感謝し、親子間の愛情は直接的な血の繋りだけによつて生れるものでないことを十分に知得したようであり、今後は真実の父母のように接したい旨を述べている状況である。(四)保護者は本件犯行前、少年の現況を憂慮し、不良仲間との隔離を企画し、少年を前記ロスアンジエルスの出張所の○藤○子方に居住させようと計画し、少年もこの計画に乗気であつた。なお、ロスアンジエルスには前記○藤○子の父で社会事業家の○藤○衛が市民権をもつて居住しており、○藤○子も近く市民権をとることになつている。環境風土が一変した米国で、良き指導者の監督の下で父の生業に励むようにすれば、必ずや従来の生活から脱却し、立派な青年として更生し得るものと確信する。上記の次第であるから、少年を中等少年院に送致した原決定は相当でないというのである。よつて、本件記録(二冊)及び少年調査記録を精査し、当審における事実取調の結果を綜合して考察するに、少年は幼時より飲酒を好み、高校入学の意欲にも欠け、保護者の意思により昭和三十一年四月○○高校に入学はしたものの、学業を厭い、素行治まらず、翌昭和三十二年九月同高校を退学したものであり、その性質は極めて我が儘であり、昭和三十三年五月十九日東京家庭裁判所において脅迫等保護事件により保護観察決定を受けながら、再び悪質な本件犯行に及んだものであり、実父母は離婚し、養父母も家業の盤景の仕事に追われて少年を顧りみる暇がなく、養父母の生活は豊かであつても家庭環境としては必ずしも好ましくないものと考えられ、少年を渡米させ、年令既に六十五歳の○藤○子及びその従兄○藤○衛に託しても、必ずしも少年の更生を期し難いものと思われるのみならず、少年を渡米させることも直に実行し得る望みが薄く、右○藤○子が少年の監督補導を受諾した訳でもないので、この際寧ろ少年を中等少年院に送致し、相当期間規律ある生活をなさしめ、その自覚を促し、社会生活に適応する習性を函養させることが相当であると思料される。なお、原決定には、決定に影響を及ぼす法令の違反も、重大な事実の誤認もないから、本件抗告はその理由がない。よつて、少年法第三十三条第一項後段に則り、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 山田要治 判事 滝沢太助 判事 鈴木良一)

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